初夏の日。山口県立美術館でやっている「野田弘志 真理のリアリズム」展を見にいった。

 野田弘志氏は「日本のリアリズム絵画を代表する画家の一人」とのことで、当然超絶技巧の画家。

 ワクワクしつつ会場に足を踏み入れ、すぐに度肝を抜かれる。

 これは3Dだ! と心の中で唸る。特に序盤にあった「黒の時代」の絵画。さまざまな静物であったり、動物であったりが、現実にそこにあるようにしか見えない生々しさで描かれている。手を伸ばせば実際にそれにふれられそう。絵画とは2Dの表現物のはずだが、感覚的にはまさに3D。

 中盤にあった「竹」という絵も凄い。竹林の中が描かれた絵画だが、これもまた手を伸ばせば竹をその手につかめそう。一歩前に進めば、実際に竹林の中に入れそう。現実にはそうではないのが理不尽に感じられる。

 終盤近くになると、やはり極めてリアルで巨大な裸婦画も展示されている。アンダーヘアも露わなヌード作品だが、目を引くのは手足の筋や血管の生々しさだろう。ひょっとするとそれは、リアルっぽさを演出するためのある種のデフォルメなのかもしれないが、そこに凄さを感じるのは事実である。

 どこかで見たことがあるようなないような、おじいさんの絵。これは詩人、谷川俊太郎の肖像画だそうだ。ラフなTシャツ姿のおじいさんを描いているだけなのに、なんともいえぬオーラがあって大いに印象に残った。

 さて最終盤、道が二股に分かれており案内が掲示されていて、片方に行けば作品が展示されているが、それを見たくない人はもう片方の道を進んでくれと書いてある。なんのこっちゃと思いつつ当然作品が展示されている方に行き納得。2点の裸婦画が展示されているのだけれども、女性器に至るまでがはっきりと描かれている。なるほどこれは眉をひそめる人もいるであろうし、逆に見たい者は舐め回すが如く見るであろう。美術館がこういうかたちで配慮をすることもあるのだなという点に妙な感心をした。

 自分としても新鮮であり、感性に良い刺激を受けた、いい展覧会であった。